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最高裁判所第三小法廷 昭和24年(新れ)45号 判決

主文

本件上告を棄却する。

当審における訴訟費用は被告人の負担とする。

理由

弁護人山田半蔵の上告趣意は末尾に添附した別紙記載の通りである。

記録を調べて見るに、被告人に対する訴因は(イ)の窃盗と(ロ)の賍物運搬の二つであって、しかも右二つの訴因は択一的の関係にあることは明らかである。かような場合において、その何れかの一方の訴因について有罪と認めた場合には他の訴因は自ら排斥されたものであることは互に相容れざる二個の訴因が択一的の関係にあることによって明らかであるから排斥された訴因について訴因排斥の理由をことさらに示さなくとも違法とは言い得ない。従って第一審判決が被告人に対する窃盗の訴因について有罪と認め、賍物運搬の訴因を排斥しながらそれを排斥した理由を示さないからとて審判の請求を受けた事件について判決をしない違法があるとはいえない。それ故第一審判決を是認した原判決には所論のような違法はないばかりでなく論旨は刑訴四〇五条に掲げる適法の上告理由とならないから採用できない。

第二点について。

原判決は証拠調をしていない弁護人原田博司、禹応道、吉本光智雄の各上申書を証拠に挙げて有罪の認定をした第一審判決を是認したものであることは所論の通りである。しかし右上申書は結局被告人の判示窃盗事実を自白したものであり、第一審判決は第一審公判廷における被告人禹応道の自白を証拠としているので、右上申書を証拠としなくとも判示事実を認め得るものである。それ故証拠調をしない証拠を採った違法があるとしても、原判決はこれを破棄しなければ著しく正義に反するものとは認められないから論旨は採用できない。

第三点、第四点について。

記録に徴するに、第一審公判廷において検事が起訴状を朗読した後裁判官より被告事件について陳述することがあるかどうかを尋ねられたのに対し「吉本等と一緒に盗んだことは間違ない旨」を供述している。そして被告人に対する訴因は第一点において説明した通り窃盗と賍物運搬の二つであって、しかもこれが択一的関係にある点に鑑みれば被告人の右供述は簡単ではあるが窃盗の訴因を是認したもので結局本件起訴状記載の窃盗の公訴事実を自白したものと認め得るから所論の如き違法はない。そして原判決はこれを破棄しなければ著しく正義に反するものとは認められないから論旨は採用できない。

よって刑訴法第四〇八条第一八一条より主文の通り判決する。

以上は裁判官全員一致の意見である。

(裁判長裁判官 長谷川太一郎 裁判官 井上登 裁判官 島 保 裁判官 河村又介 裁判官 穂積重遠)

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